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【ミドルマネジャーに贈る勇気の出る言葉】田中和彦

田中和彦【ミドルマネージャーに贈る勇気の出る言葉】
田中和彦【ミドルマネージャーに贈る勇気の出る言葉】
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安定を求めるようになると成長が止まる。
不安定の中で革新を求める方がよい
(ユニクロ創業者/柳井正)

 本年度の新入社員は、先行き不透明な時代ゆえ、企業に安定性を求める傾向が顕著だと聞く。私が社会人になったのは43年前。第2次オイルショックの影響で、今年同様に安定志向が強い世代だった。

 その年の人気企業ランキング(1982年文系男子)を振り返ってみると、総合商社や金融機関がずらりと並んでいた。社名を見ると上位20社の半数である10社は、今は存在していない。単なる社名変更が2社あるが、経営破綻して消滅した会社が1社(日本長期信用銀行)、あとの7社は統廃合の結果である。1982年において「安定」の象徴的な存在だった都市銀行13行が、今では四つの銀行グループに集約されている。

 保険業界を含めて金融全体の再編成が当たり前に行われてきたことがよく分かる。また、製造業の中でも安定性で群を抜いていた電機メーカーや自動車メーカーも、激しいグローバル競争の中、苦境に陥っている。当時こんな現状を予測できたのは、誰一人いなかっただろう。

 私の知人が面白い話を聞かせてくれた。大型旅客機は一見、安定していると思われがちだが、実はアクシデントへの対応が一番難しいとのこと。急降下や急上昇などはほとんど不可能だそうだ。逆に、戦闘機は絶えずバランスを取らねばならぬよう、意図的に不安定に設計されており、その分、機動性に優れ、急に気流が乱れても、簡単に対応できるらしい。つまり、「安定は不安定。不安定こそが最大の安定」ということだ。

 新入社員たちよ。今が安定しているからと言って、10年後、20年後も安定しているとは限らない。むしろ、どんな環境になっても生き抜ける力をつけることが大事だ。そして、彼らを育成する側にも強く認識してほしいことがある。安全地帯で仕事をさせるだけでなく、ときには不安定な刺激の中に彼らを置くことも成長を促すのだ、と。

  ×  ×  ×

 2020年4月のGXプレスのスタートから丸5年間、毎月コラムを書かせていただきました。今回が第61回になります。
 大分合同新聞の本紙が大型旅客機なら、GXプレスは戦闘機の役割だったのかもしれません。個人的には、また形を変えて別の戦闘機的なメディアが立ち上がるのを期待しています。5年間、本当にありがとうございました。=終わり=

参考資料=【1982年人気企業ランキング/文系男子 リクルート調べ】
1 三菱商事
2 三井物産
3 住友商事
4 東京海上火災保険→東京海上日動火災保険
5 丸紅
6 サントリー
7 伊藤忠商事
8 日本電気(NEC)
9 日本興業銀行→みずほ銀行
10 安田火災海上保険→損害保険ジャパン
11 住友銀行→三井住友銀行
12 日本生命保険
13 日本放送協会
14 三和銀行→三菱UFJ銀行
15 富士銀行→みずほ銀行
16 松下電器産業→パナソニック(社名変更)
17 日本長期信用銀行→経営破綻で消滅
18 電通
19 日本交通公社→JTB(社名変更)
20 三菱銀行→三菱UFJ銀行

Profile

 たなか・かずひこ プラネットファイブ代表取締役。1958年生まれ。元就職情報誌の編集長。年間100回以上管理職研修の講師を務める。マネジメントやリーダーシップ関連の著書多数。別府鶴見丘高校出身。

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