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【ビジネスの“タネ”―事業アイデアの育て方】④「アーネット」都留栄一さん

開発担当者の都留栄一さん(右)は社内の若手社員とも協力。LEDの調整についてシステムエンジニアの朝田悠斗さんと協議
開発担当者の都留栄一さん(右)は社内の若手社員とも協力。LEDの調整についてシステムエンジニアの朝田悠斗さんと協議
  • 開発担当者の都留栄一さん(右)は社内の若手社員とも協力。LEDの調整についてシステムエンジニアの朝田悠斗さんと協議
  • 開発を担当する都留栄一さん
  • 現在開発中の装置「FORESTRY」。ヘルメットの後部に装着し音と振動で危険を知らせる仕組み。
  • 初期段階の装置(右)から改良を進めた装置(左)。小型化は進んだが改良はまだまだ必要という。
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 事業のアイデアを持っている企業や起業家は多くても、実現は難しい。アイデアを実現するには、どんなきっかけやアドバイス、苦労や困難があったのか―。2023年度、大分県ビジネスアイデア実現支援プログラム「GEAR」に採択された企業の取り組みを追いながら、事業アイデアを実際に形にしていくプロセスを紹介する。
 
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 システム開発の「アーネット」(大分市)では、林業現場の労災を減らす安全対策システムの開発に取り組んでいる。林業は労働災害の発生率が他の産業に比べ、高い。2021年から、この課題をIoTの活用で解決しようとしている。実用までには課題が山積みだが、林業現場の期待を受け、粘り強く挑戦している。開発のきっかけから現状までを、同社企画開発室エキスパートエンジニアで担当者の都留栄一さん(51)に聞いた。

■なぜ事故が起こるのか―探る

 「アーネット」では、パソコンで動くソフトの開発だけでなく、機械などにプログラミングを組み込む開発も手がけている。“モノ”とインターネットとをつなぐ技術「IoT」の実績も多い。2021年に、大分県西部振興局より「林業業界ではどうしても労災事故が減少しない。IoTの活用で改善できないか」という相談があった。日田・玖珠・九重といった大分県西部地域の業界団体から県へ寄せられた相談が、同社につなげられた形だ。
 なぜ事故が起こるのか―。都留さんにとって、林業を対象にした業務は初めてだったため、団体へのヒアリングから取り組んだ。林業は他の産業に比べ労働災害の死傷者数の割合が群を抜いて多いことや「作業員の安全講習を行っても事故が減りにくい」という現状を知った。
 大半の事故は、木を切り倒す作業中に起こっている。多くの作業は、3~5人の作業員が同じ山に入り木を切り倒して重機で運び出す。100~200メートル四方という範囲に複数人がいる状況で実施されている。
 山中では、木にカズラが巻きついていたり、地面に倒れる前に他の木に引っかかってしまうなど意図せぬことがある。想定外の木が裂けて作業者に落下したり、別の木が倒れかかったことで、作業をしていた木の根元部分が跳ね上がり作業者に激突することもある。近くで作業している重機に敷かれてしまうケースもあった。
 自身の作業に集中していると、別の人の接近に気付けないことがあり、事故原因にもつながっている。さらに事故が発生し助けを呼ぼうにも、チェーンソーなどの作業音が響く山中では人の声が届きにくい。山中の現場は、携帯電話の電波が届かないことが多く、連絡も付かない状況がある。

■意図せぬ近接による発生防ぐ

 都留さんは、まず、作業員同士の意図せぬ近接作業による事故を防ぐ方法を検討。人と人との距離をGPSで計測しようと試みたが、起伏の激しい山中では10~20メートルの誤差が出てしまうため役に立たなかった。そのため、人同士の距離は、電波強度でおおよその位置を把握し、GPSで方角を検知するなどして“算出する”方法を採用した。
 開発中の装置は、人の接近を作業員に音と振動で知らせる仕組み。「機器自体が作業の邪魔になる」という意見に配慮し、最終的には、ヘルメットに装着できる73グラムと小型化した。
 しかし、現場で実証実験をすると、他の作業員の接近を知らせる音と振動は、周囲や自身の作業で生じるチェーンソーの音や振動によって、ほとんど感じ取れない結果となった。そのため、LEDの光の点滅によって接近が分かる機能を検討。ただ、Bluetoohなどの無線で信号を受信し、作業員のヘルメット前方に装着できる小型LED製品がなかった。現在は、次の一手を思案中だ。

■販売価格も大きな課題の一つ

 事故の発生時に警察や事務所などに連絡できるSOSの機能整備も検討したものの難航。衛星通信サービスによる連絡方法も試してみたが、機能や作動には問題ないものの、通信事業者に支払う高額な利用料が実現のネックになった。ただし、衛星通信サービスを導入すると、山中でインターネットも利用できる。
 販売価格の課題も大きい。重機と個々の作業員の動きを把握するようなシステムは、現状では1セット数百万円と高価。「1セット30万円程度など林業組合などで購入しやすい価格帯を目標にしている」。
 課題は多いが、林業の労災事故率低下につながる装置の必要性は高い。アーネットでは、県の補助金も活用し開発しているものの「人件費などを考えると現状は赤字」という。それでも、林業従事者の期待を受け開発を進めてきただけに「自分たちが納得する装置を完成させ、現場で利用できるようにしたい」。使命を感じて粘り強く開発を続けている。

Company info

【代表者名】佐田孝博代表取締役
【設立】2002年
【所在地】大分市中島西
【業種】各種ソフトウエア、組込みシステムの設計・開発・保守
【資本金】1000万円
【従業員】41人

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