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【大分の「ものづくり企業」】③ 広がる“貼る”技術、同業者はパートナー

エイコー印刷では近年、小ロット、高単価の注文が増えているという
エイコー印刷では近年、小ロット、高単価の注文が増えているという
  • エイコー印刷では近年、小ロット、高単価の注文が増えているという
  • エイコー印刷が開発した抗ウイルス・抗菌加工が施されたステッカー
  • 工場内の様子。全部で19台の印刷機に対して、9人の技術者が分担しながら印刷作業をする
  • エイコー印刷の安部秀徳代表取締役社長
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 街のレストランに貼られている口コミサイトのステッカーや、イベントで配られるオリジナルのシール、ATMに貼られた抗ウイルス・抗菌フィルム。普段、何げなく見かける“貼られている物”は、大分県別府市の企業で作られた製品かもしれない。

 エイコー印刷(別府市古市町)は、シールやラベル、ステッカー専門の印刷会社。近年、需要が拡大しているのが小ロット、高単価の依頼。例えば、オーダーメード香水や、1本数万円する焼酎やクラフトウイスキーの“特注”ラベルだ。

 安部秀徳代表取締役社長(42)を中心に、新規顧客開拓にも力を入れている。昨年はデザインの専門誌「デザインのひきだし」(グラフィック社、東京都)の表紙を手がけたほか、ウェブメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する「ほぼ日」(東京都)がプロデュースしたオリジナルステッカーの注文も受けた。千葉県の博物館で常時開催されているイベントの景品にも、同社のステッカーが採用されている。

 安部社長は交流サイト(SNS)で話題になっているクリエイターらへ直接自社のサンプルを送り、PRする。そこから商談につながるケースも増えている。

 積極的な設備投資で、顧客のさまざまな要望に応える。全国で3%ほどしか流通していない、高精細なオフセット印刷の機械を5台保有する。その他の印刷機も合わせると19台の設備があり、技術者9人が分担しながら印刷作業をしている。

 営業担当の5人全員が、印刷機に精通しているのも強み。同社では営業職として入社すると、まず印刷部門で経験を積む。色の重なりの相性など、技術的な知識を得て顧客に提案できるようになる。商品設計からデザインソフトを使った加工、製版する直前まで担う。

 全国から仕事を受注していることから、同業者の「サテライトファクトリー」を自称する。安部社長が入社した2008年、印刷業界の経営者を中心に、技術を共有し合うグループをSNSで開設した。同業者が見積もりを受けたが技術的にできないような仕事を、エイコー印刷が引き受けるなど新規の仕事受注にもつながった。「われわれは同業者をパートナーと呼ぶ。同業他社の仕事を請け負うことで、結果的に自社の営業網が全国に広がっているのと同じ効果がある」。横のつながりは特に大切にしている。

 安部社長が入社してから1年に1.5台ずつほどのペースで設備投資を続けてきた。一方で、現在の敷地内にはこれ以上設備を増やすことができない状態に。近隣に土地を広げることができず、建物を建て直すにしても、工事期間中は仕事ができなくなる。中長期的に見ると、いずれ頭打ちになることが予想されるため、対策に知恵を絞る。

 現在の業績は堅調だが、どこまで伸びるかは未知数。業界を見回すと、同業者の間では事業承継に苦戦するなどで、プレーヤーが減ることも予想される。安部社長は今後について「今までシールやステッカーで培ってきた『貼る』という技術を応用し、さまざまな業種との取引を広げたい」と意気込んでいる。

 (年齢は記事公開時)

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